京都・西山、竹林に囲まれた地道を登って行くと、
山の風景にぴったりと寄り添うような風情の松崎さんの工房がありました。
柔和で優しく、語りかけてくるような表情が特徴の作品たち。
松崎勝美さんに、「石仏ですよね」と問うと、「それは見る方次第です」というお答え。
日本で、ニューヨークで、評判を呼んだ「想守(おまもり)」と名付けられた石の造形たち。
汚れても苔むしても、生活の中に置いて、いっしょに時間を過ごしてほしい。
そう、私の作品は道具でありたいから、と、語る造形作家松崎さんは、とっても気さくな、石とサーフィンを愛する方でした。
この作品が生まれるまでのお話を。
■松崎
小さいころから、道端の石をよく拾っていましたね。
で、4歳か、5歳の時でしたか。親父さんと歩いているときに、
工事現場の近くで、土に埋もれている石仏を見つけたんです。
それを二人で掘り起こし、
神社のそばに、置いてきたのを覚えています。
当時、どんな気持ちでそんな行動をしたのかは、
覚えていませんが、なにか、心に残る体験だったのでしょうね。
大人になってからは、石材屋さんで、仏像を彫っていました。
それが、今の仕事につながっていると思います。
私の作品は、石仏としては発表していないのですが、
石仏じゃないですよね、と問われれば、そうです。
仏さんですよね、と問われれば、そうです、と。
要するに見る人次第だと思います。
ただ、この子らと会話してみてください。
うれしいとき見ると、きっとうれしい顔をしてくれます。
悲しいとき、悩んでいるときに見ると、
あ、がんばらなあかんな、と感じたり、
その時その時、見ている人の心が現れてくるのですね。
心の鏡とでも言ったらいいのかな。
例えば生活の中の相談相手みたいな存在でもいいと思います。
この作品ができるまでは、
材料の石もいろいろ試しました。
で、結局これは、兵庫県の高砂で取れる
「竜山石」という凝灰岩なんですが、それを使っています。
元来固くて彫りにくい石です。
でも、見てもらったらわかると思いますが、
角が立ちすぎず、柔らかいイメージなんです。
この石に出会って、
この表情と素材の質感がしっくりきましたね。
当然、ひとつひとつ表情が違いますから、
個展では、気に入った表情が見つかるまで、
お客様のだれもがじーっと顔を見つめておられます。
で、ニューヨークの個展であった話なんですが、
ある日の会場で気に入られて買っていただいたお客様が、
別の会場で改めてみると、別の顔のほうがいいから、
交換してくれないかと。
その日の気分、心の模様によって、感じ方が違ってくる。
そんな作品なんです。
もうひとつ、どこに置いたらいいのかと、聞かれます。
当然、お庭に置いてもいいし、
室内に置いていつもきれいにしている方もおられます。
お風呂の中で、いつもお湯をかけているよ、
とおっしゃる方もいました。
つまりどんな楽しみ方をしようが、見る方次第なわけです。
試してみて試してみて、やっと置き場所がしっくりきました、
とお手紙をもらったこともあります。
私の作品は、高みに置いて鑑賞するアートではない。
いつも、生活の中において、日々会話してやってください。
それが、作者の願いですね。
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